
「気候変動は私たちの時代の存続に関わる危機である」。この真実のもと、2021年にイギリス・グラスゴーで開催されたCOP26で世界が団結しました。今こそ、世界の気温上昇を抑えるための最大限の取り組みが求められているのです。
科学的には、人類による二酸化炭素の排出が取り返しのつかない状況を招いていることは明らかで、その排出源は非難の的となっています。そして、一歩引いて世界を見ると、気候変動と根本から戦うには無視できないパラダイムが浮かび上がってきます。それは、「経済的な繁栄が、炭素排出量を増加させる大きな要因である」ということです。

世界経済の成長に伴い、10億人超が極度の貧困から救い出され、中流階級が拡大しました。アメリカのシンクタンクであるブルッキングス研究所は、2018年を「世界人口の50%強が中流階級および富裕な家庭で暮らす最初の年」としています。こうした経済的繁栄により、貿易、インフラ整備、産業活動が活気づき、結果として炭素排出量の増加も進んだのです。
この「繁栄と炭素排出量の関係」からは「健全な経済成長と地球の健康は共存できるのか」という疑問が生まれます。
その答えは「イエス」です。脱炭素への投資は私たちの世代にとって有望な成長機会のひとつだと考えます。しかし、これには具体的なロードマップが不可欠です。
二酸化炭素排出の削減に向けた当社のデスティネーションゼロ戦略は、上記の図で示した3つの要素を柱としています。「バッテリーおよび燃料電池を用いたゼロエミッション技術」「低カーボン及びゼロカーボン燃料」「移行技術としての、燃料に依存しないパワートレインプラットフォーム」。これらは、輸送およびモビリティに関する包括的な技術のロードマップに根ざしたものです。
1.バッテリーや燃料電池を活用して、ゼロエミッションを実現
バッテリー及び燃料電池ソリューションは、一部の商用輸送で導入可能です。この技術は、Tank-to-Wheel(タンクに燃料が入っている状態から走行中までの炭素排出を示す指標)の観点ではゼロカーボンであるため、地域における排出ガス問題や大気汚染問題の解決に役立っています。
さらに、使用されるエネルギー源が環境に優しいものであれば、Well-to-Wheel(燃料の生産から走行中までの炭素排出を示す指標)の観点からもゼロカーボンとなります。例えば、再生可能エネルギーで電気バスを動かすようなケースは、Well-to-Wheelでゼロカーボンと言えるでしょう。
私たちはすでに、スクールバスや路線バスのメーカーと提携して、全電動のバスを実現したほか、燃料電池を動力とする旅客列車の商用運行も実現しています。

当社は様々な技術を持ち合わせていますが、依然として電動化が困難な商用輸送アプリケーションが多数あります。その主な要因は、経済的な実行可能性、ミッションの業績、及びインフラの問題です。
バッテリーや燃料電池といった技術がこれらのアプリケーションに対応できるようになる日を待つのも、ひとつの考えです。しかし、二酸化炭素排出量の削減は、1日でも早く実現しなければなりません。アメリカの中型・大型トラックだけでも、1日に排出する二酸化炭素量は100万t超に及ぶのです(2020年時点)。
2.低カーボン及びゼロカーボン燃料の使用で、炭素排出量を削減
電動化が困難な商業輸送アプリケーションの炭素排出量を、大幅に削減あるいは完全にゼロにする選択肢として有効なのが、低カーボン及びゼロカーボン燃料の使用です。これで発電を行った場合、Well-to-Wheelに基づく炭素排出量はディーゼル燃料よりも少なくなります。
これらの燃料は4つのグループに分けられます。1つ目は低カーボン燃料。燃やすと炭素を排出しますが、炭素の排出量はディーゼルエンジンよりも少なくなります。2つ目はカーボンニュートラル燃料。燃やすと炭素を排出しますが、排出された炭素はほかの活動で完全に相殺されます。3つ目はゼロカーボン燃料。燃やしても全く炭素を排出しません。4つ目はカーボンネガティブ燃料。燃料の生成と消費の結果、正味のGHG排出量がマイナスになる燃料です。
上記に分類される燃料には様々なものがありますが、水素、天然ガス、バイオディーゼルの3つが代表的です。このほか、合成燃料(e燃料)は将来、主流となる可能性が期待されています。
・ 水素
普及が進んでいるエネルギーキャリアです。その主な理由は、太陽光や風力、水力などの再生可能エネルギーを用いて水を電気分解して水素を生成することで、ゼロカーボン燃料が得られること。水素は、内燃エンジンまたは水素燃料電池を通して車両に供給されます。水素を使用すれば、炭素排出量を大幅に削減することが可能です。
EPAが発表している「Greenhouse Gas Emissions Model (GEM) for Medium- and Heavy-Duty Vehicle Compliance」を用いた試算によると、水素エンジンを搭載し、グリーン水素を燃料とする2027年モデルの大型貨物トラックは、ディーゼルエンジンを使用したトラックと比較して全ライフサイクルで1,437トンのCO2を削減できます(積載量を19トン、年間走行距離を12万マイルとした場合)。
このように、水素は大きなメリットを持ちます。一方、インフラ整備の必要性とグリーン水素の生成量に課題が残っています。
・天然ガス
ゼロカーボン技術のインフラが発展し続ける現在、炭素排出量の削減に大きく貢献しています。化石燃料ですが、ディーゼルなどの化石燃料に比べて炭素の発生は少量です。
特定のユースケースでは、再生可能天然ガス(RNG)も、カーボンネガティブとなり得ます。例えば、有機物を放置すると、温室効果ガスの一種であるメタンガスが発生します。そのため、有機物を分解して製造されるRNGは炭素強度がネガティブになるのです。
一方、天然ガスが炭素排出量の削減に果たす役割については、2つの議論が行われています。1つ目は、車での天然ガス使用量が増えても、天然ガス輸送時のパイプラインからのメタン漏出によって、その一部が相殺されること。2つ目は、RNGの負の炭素強度の根拠となる計算について。すべてのRNGが負の炭素強度を持つわけではないことを認識することが重要です。
私たちは、回収されたメタンの発生源やRNG輸送の効率を評価して、RNGの利用がGHG排出量の実質的な削減につながるかどうかを判断する必要があります。
・バイオディーゼル
主に動植物に由来する再生可能な燃料です。バイオディーゼルの原料として使用される植物は、大気中から炭素を取り込み、バイオディーゼルが燃焼する際に同じ炭素原子を大気中に放出します。これにより、バイオディーゼルは理論的にはカーボンニュートラルと言えるのです。しかし実際は、作物の栽培時や、バイオディーゼルの生産時に発生する排出ガスも考慮する必要があります。
石油ディーゼルにバイオディーゼルを20%混合させたB20燃料は、すでに私たちの生活に溶け込んでおり、多くのエンジンがB20で走行できます。炭素排出量の削減に向けた次のステップは、B40やB100といった純粋なバイオディーゼルで走行できるエンジンを開発することです。
・合成燃料(e燃料)
合成燃料にはさまざまな形態があります。なかでもe-ディーゼルとe-ガソリンは、商業輸送アプリケーションに適した合成燃料です。これらの燃料は大気中に排出された二酸化炭素とグリーン水素を使って製造できるため、カーボンニュートラルです。さらに、既存の燃料供給インフラを活用できる点もメリットです。しかし、コストの高さや入手の困難さといった課題が残されています。
インフラ整備は、一部の低カーボン及びゼロカーボン燃料が直面している課題です。しかし、中型・大型トラックを複数台所有する企業の場合は、固定の走行ルート上に燃料補給設備を数カ所設置するだけで利用が可能になります。この取り組みにより、必要なインフラの構築が促進されるでしょう。

3.燃料に依存しないエンジンプラットフォームで、低炭素燃料の利用を拡大
燃料に依存しないエンジンプラットフォームは、共通のベースエンジンから派生した複数のエンジンバージョンで作られています。各エンジンのボトムエンドは同じに見えますが、その上には各燃料に対応した独自のシリンダーヘッドを搭載できる設計となっているのです。
このエンジンプラットフォームは、ディーゼル、プロパン、天然ガス、水素などを利用でき、低炭素燃料を動力源とすればGHG排出量の削減が可能です。また、慣れ親しんだディーゼルエンジンに近い動作特性や車両への搭載方法のため、扱いやすいことも特徴です。さらに、バッテリーや燃料電池に比べて低コストで導入可能なため、財政面でも運用面でも、おすすめの選択肢です。
ロードマップにある3つの要素は、組み合わせることもできます。例えば、バッテリー電気システムと燃料に依存しないパワートレイン・プラットフォームを組み合わせて、ハイブリッド・ソリューションを構築することも可能です。
気候変動は私たちの時代の存続に関わる危機です。世界ではすでに多くの国や企業が、カーボンゼロまたはカーボンネガティブを約束しています。この記事で紹介したソリューションは、今後広く普及していくことでしょう。しかし、その普及をただ待つのではなく、エンドユーザーの皆さんにも積極的に、脱炭素に取り組んでいただけることを願っています。
参照:
1気候変動に関する政府間パネル。(2021年8月)気候変動2021、物理科学基礎[PDFファイル]。https://www.ipcc.ch から取得
2米国環境保護庁。(2021年12月)米国運輸部門の温室効果ガス排出量。[PDFファイル]。https://www.epa.gov/ から取得
3米国EPAの温室効果ガス排出ガスモデル(GEM)を用いて分析を行い、中負荷および高負荷車両のコンプライアンスを実現します。年間19トンのペイロード、120,000千マイルの使用を想定しています。https://www.epa.gov/ から取得
4米国エネルギー情報局。(n.d.)。バイオ燃料について、バイオマスベースのディーゼルと環境について説明しました。[Webページ]。https://www.eia.gov/ から取得