発電
電気とは?
ベンジャミン・フランクリンは、雷雨の中、金属製の鍵を取り付けた凧を揚げて電気の実験を始めました。しかし、これは現在の健康・安全基準では安全な行為ではありません。
雨雲は静電気を帯びており、雷は静電気の放電であるというのが彼の理論でした。落雷で鍵が帯電したことにより、雷と電気が同じ現象であることを証明したのです。フランクリンは、雷は雲から地面へ放電であるという正しい考えを持っていましたが、それを表現するための科学的な概念がありませんでした。
その後、彼の遺志を継いで、電気科学、電気工学、および、発電技術が飛躍的に進歩したのは19世紀のことです。
アレクサンダー・グラハム・ベル、ニコラス・テスラ、ヴェルナー・フォン・ジーメンスなど、電気のパイオニアたちは、電気を科学的な好奇心から生活に不可欠なものへと変えました。その中には、トーマス・エジソンやジョージ・ウェスチングハウスのように、産業帝国を築いた人もいます。エジソンとウェスチングハウスは、技術史の中でも最も興味深い「電流戦争」を繰り広げた人物でもありました。それについては、また改めてご紹介します。
電気はエネルギーの一形態であり、導電性物質中の電子の流れから成り立っています。
電子とは、原子のまわりを回る負の電荷を帯びた粒子です。原子核には、陽子と呼ばれる正の電荷を持つ粒子と、中性子と呼ばれる電荷を持たない粒子があります。通常、原子は陽子の数と同じだけの電子を持っています。そして、電気の流れによって電子が他の原子に衝突すると、電子が1つ多い原子が生じます。そして、別の電子がまた別の原子に衝突します。これが電流のしくみです。
発電方法
発電には、電子の流れを起こし、その流れを維持するように設計された機械を使用します。これは通常、発電機です。他の発電方法には、ソーラーパネルやバッテリーもあります。
発電機には回転運動が必要で、通常はタービンやエンジンのようなものが使われます。この回転運動は、発電機のローターに伝わります。発電機の内部では、ローターが磁界を作り出します。ローターが回転すると、磁界も回転します。回転する磁界が、発電機の静止部にある銅製の導体の電子を励起し、電流を作り出すのです。磁界が固定子の電子を後押しして、電子が動き出すと考えることもできます。電気は、銅の導体を通って発電機や発電所から電線へと送り出されます。
電気はどこから来るのか?
これに答えるには、順番にさかのぼってみましょう。
家の中でスイッチを入れると、電気がつきます。毎日何十回となく行うことですが、具体的に何が起こっているのか、どのような電気システムがそれを可能にしているのかについては、考えることはありません。
少し、電気の流れをさかのぼってみましょう。電気は、電気パネルからサービスエントランスを通って家に入ります。サービスエントランスは、架空送電線の低圧ケーブルで、電柱に取り付けられた変圧器に接続されています。そして、この変圧器は中電圧の架空送電線によって、一定地域の電気利用者をつなぐ配電網と呼ばれるものに接続されています。
配電網は、変電所を介して送電網に接続されます。送電網は、大量の電気を長距離にわたって送るために、高電圧および超高電圧の送電線で構成されています。これらの送電線が、電力を生産する発電所につながっています。
電流を、パイプの中を流れる水に例えてみましょう。何百マイルも離れたパイプの始点では、水圧は非常に高いです。それが住宅街に近づくにつれて、扱いやすい水圧に下げられます。電気も同様に、途中に設置された変電所や変圧器で、電圧を下げているのです。
再生可能な電気とは?
再生可能な電気とは、簡単に言えば、再生可能エネルギーを利用して発電した電気のことです。再生可能な電気の発電方法としては、太陽光発電、風力発電、水力発電の3つが最も一般的です。
再生可能電気の需要が高まっている理由は、大きく2つあります。1つ目は、価格の安さです。ソーラーパネルや風車は、年々性能が向上し、価格も安くなっています。2つ目の理由は、環境への配慮です。化石発電所の排出ガスに対する寛容度は急速に低下しており、化石発電所から再生可能エネルギーへと移行する原動力になっています。
交流と直流の電気とは
回路内の電気の流れ方には、交流(AC)と直流 (DC)があります。
DCは一定のペースで常に同じ方向に流れます。ACは流れる速度も移動方向も頻繁に切り替わります。
北米では、電力供給が60Hzであるとすると交流電流の方向が1秒間に60回切り替わることを意味しています。ACは、高速なレーシングカーのクランクシャフトに例えられます。複数のシリンダーがクランクシャフトを押して車を動かしますが、同時に押すわけではありません。力を合わせて前進させるので、車が常に動いているように感じるのです。
次に、DCをハンドドリルに例えてみます。ドリルは、どんな作業にも一定の力で、一定の動きをします。
電化の初期には、DCもACも、発電、送配電、消費のための有効な手段と考えられていました。ここで、エジソンとウェスチングハウスの話に戻ります。
エジソンが思い描いていたのは、直流電気を使った電気システムです。一方、ウェスチングハウスは交流方式の開発を支援していました。しかし、交流と直流は相反するものであり、どちらかが有利になれば、もう一方が不利になるという問題がありました。その結果、歴史に残る熾烈な競争が繰り広げられたのです。
最終的に交流が主流になりました。これは、発電所から変電所を経由した、家庭や企業までの送配電が効率的で、はるかに容易だったからです。
エジソンの直流電気システムは、直流エレベーターのある古い建物や、直流で走る車両のある地下鉄などに供給されていたため、ニューヨークには20世紀に入っても残っていました。マンハッタンで最後に直流を使っていたのは、40番通りにあるビルで、2007年になってから切断されました。
興味深いことに、直流送電線が一部の用途で復活しています。例えば、洋上風力発電で発電した電気を陸に送るための海底ケーブルには、直流送電線がよく使われています。直流送電線が交流送電線に接続できるのは、直流と交流の間でパワーエレクトロニクスがあるからです。これが発明されたのは19世紀ため、エジソンやウェスチングハウスには変換の選択肢はありませんでした。
AC、DC、再生可能な電気
興味深いことに、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの増加に伴い、直流電力への関心が再び高まっています。これにはいくつかの理由があります。
第一の理由は、洋上風力発電で発電した電気を陸地に戻すための海底ケーブルには、直流が適しているということです。この直流接続は、高電圧直流(HVDC)線と呼ばれることもあります。
もう1つの理由は、ソーラーパネルは直流の電気しか作れないということです。
3つ目の理由は、実用規模の蓄電システムが増えてきたことです。蓄電システムは、直流電力しか生成できないソーラーパネルの出力変動を平滑化するために、よく併設されます。これらの直流要素はすべて、直流と交流の間で最小限の損失で電気を変換できるパワーエレクトロニクスを使って、広範な交流電力網に接続されます。
パワーエレクトロニクスが発明されたのは19世紀に入ってからなので、エジソンとウェスチングハウスにとっては、残念ながら、和解する選択肢がありませんでした。